2026年8月22日
「熱中症対策でスポーツドリンクを飲ませているんだけど、歯に影響はあるのかな」
「夏になると毎日のように水筒にスポーツドリンクを入れているけど、大丈夫かどうか気になっていて」
子どもの熱中症が心配な季節、こうした疑問を持つ親御さんは多いと思います。
水分補給はとても大切です。特に炎天下での運動や外遊びが多い夏場は、水だけでなく電解質(塩分やミネラル)も補えるスポーツドリンクが有効な場面があります。でも、「体のために飲ませているはずなのに、歯に影響が出てきた」となれば困りますよね。
実は、スポーツドリンクや果汁ジュースなどの酸性の飲み物を日常的に多量に飲み続けることで、「酸蝕症(さんしょくしょう)」という歯が少しずつ溶けていく状態になることがあります。むし歯とは少し異なるメカニズムで起こるこの状態、夏場に特に気をつけていただきたいテーマのひとつです。今回は、熱中症対策と歯の健康を両立させるための考え方をお伝えします。

酸蝕症(さんしょくしょう)という言葉、初めて聞く方も多いかもしれません。
むし歯は、口の中のむし歯菌が糖分を分解して作り出した「酸」によって歯が溶ける状態です。一方、酸蝕症は食べ物や飲み物に含まれる「酸」が直接歯の表面を溶かすことで起こります。むし歯菌は関係なく、酸そのものが原因になるという点が大きな違いです。
歯の表面はエナメル質という非常に硬い組織で覆われていますが、酸には弱い性質があります。pH(ピーエイチ)という酸性・アルカリ性の度合いを示す数値で言うと、pH5.5を下回る酸性の環境では歯が溶け始めると言われています。
スポーツドリンクや果汁ジュース、炭酸飲料はこの基準より酸性度が高いものが多く、頻繁に・長時間口の中にある状態が続くと、歯の表面が少しずつ溶けていく可能性があります。
酸蝕症が進むと、歯の表面がすり減って薄くなったり、透明感が増して黄ばんで見えたり、冷たいものや甘いものがしみやすくなったりします。むし歯のような黒い変色が必ずしも出るわけではないため、気づかないうちに進行しているケースもあります。
「じゃあスポーツドリンクは飲ませない方がいいの?」という疑問を持つ方もいると思います。でも、そういう話ではありません。
炎天下での運動中や、大量に汗をかいたときは、水だけでなく塩分や糖分・ミネラルを補うことが熱中症予防において重要です。スポーツドリンクは、こうした場面で適切に使うことに意味があります。
問題になるのは、「必要な場面以外でも日常的に飲み続けること」「一度にまとめて飲むのではなく、長時間かけてちびちびと飲み続けること」です。後者は特に注意が必要で、口の中が酸性の状態に長時間さらされ続けることになります。
飲み物のpHとして参考になるものを挙げると、コーラなどの炭酸飲料がおよそpH2〜3、スポーツドリンクがおよそpH3〜4、果汁100%ジュースがおよそpH3〜4程度と言われています。水はpH7前後と中性に近く、お茶もほぼ中性から弱酸性の範囲です。
「スポーツドリンクを飲むな」ではなく、「飲む場面と飲み方を意識する」ことが、歯の健康を守りながら熱中症対策もできるポイントです。

では、具体的にどんな飲み方を意識すればいいのでしょうか。
まず大切なのは、「一気に飲み切る」ことです。ちびちびと長時間かけて飲み続けるのではなく、飲むときはある程度まとめて飲む。これだけで、口の中が酸性にさらされる時間を大幅に短縮できます。スポーツ中の水分補給も、「少量をこまめに」が理想とされますが、これは時間をかけて少しずつ口にし続けることではなく、適切な間隔で短時間に補給することを指しています。
飲んだ後に水やお茶で口をすすぐことも効果的です。酸性の飲み物を飲んだ後、水で軽くすすぐだけで口の中の酸を薄めることができます。外出中でも、水筒に水かお茶を一緒に入れておいて、スポーツドリンクを飲んだ後にひと口水を飲む習慣をつけると良いかもしれません。
飲み物を飲んですぐに歯を磨くのは、実は逆効果になる場合があります。酸で一時的に柔らかくなったエナメル質をすぐにこすると、傷をつけてしまうことがあるためです。飲食後は30分ほど時間をおいてから歯磨きをするのが望ましいとされています。
就寝前に甘い飲み物や酸性の飲み物を飲むのは、特に避けていただきたいです。夜間は唾液の分泌が減り、口の中が中性に戻りにくくなります。就寝前は水かお茶にして、その後しっかり歯を磨いて寝る習慣を続けてください。
少し関連した話をさせてください。
近年、「ペットボトル症候群」という言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。これは、スポーツドリンクや清涼飲料水に含まれる糖分を大量に摂取し続けることで、血糖値が急上昇する状態のことを指します。医学的には「ソフトドリンクケトーシス」とも呼ばれ、夏場の子どもや若い世代に見られることがあります。
歯への影響という観点からも、ジュースやスポーツドリンクを水がわりに日常的に飲み続けることは、酸蝕症やむし歯のリスクを高めます。「喉が乾いたら水かお茶、運動中や大量に汗をかいたときはスポーツドリンク」というメリハリのある使い分けが、体にとっても歯にとっても理にかなった飲み方です。
「うちの子はジュースやスポーツドリンクをよく飲んでいる」と気になっている場合は、一度歯の状態を確認してもらうと安心です。酸蝕症は早期に気づくことで、進行を防ぎやすくなります。
最後に、歯を守るうえで意外と見落とされがちな「唾液」の話をさせてください。
唾液には、口の中を中性に戻す緩衝作用(かんしょうさよう)があります。酸性になった口腔内を少しずつ中性に戻し、溶けかけた歯の表面を修復しようとする「再石灰化」を助ける働きがあります。
唾液の分泌を助けるためにできることとして、よく噛んで食べることが挙げられます。噛むという動作が唾液の分泌を促します。夏場は食欲が落ちて食事をあっさり済ませがちですが、できるだけしっかり噛んで食べることが口腔環境の維持にもつながります。
また、口が乾きやすい夏場は意識的に水分補給(水やお茶で)を行うことも、唾液の分泌維持に関係しています。口の乾燥は唾液の量を減らし、自浄作用の低下につながります。
「毎日スポーツドリンクを飲んでいるけど歯は大丈夫かな」「酸蝕症が心配なので一度診てほしい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
足利市福居町のむらかみ歯科・矯正歯科では、生活習慣に関わる口腔環境のご相談にも対応しています。「治療というわけではないけど気になることがある」「子どもの歯の状態を確認してほしい」という来院でも、もちろん大歓迎です。夏の間も、お子さんの歯の健康を一緒に守っていきましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状や治療については、歯科医師へのご相談をおすすめします。
栃木県足利市福居町の歯医者「むらかみ歯科・矯正歯科」院長の村上智保です。
小児歯科・こどもの矯正を中心に、子どもから大人まで通いやすい歯科医院を目指しています。
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